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神戸地方裁判所 昭和41年(わ)992号 判決

被告人 猶井満

主文

被告人を懲役一年に処する。

未決勾留日数中一二〇日を右本刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和四一年一月二日午後一一時三〇分ごろ、堂本幸吉、田野秋男とともに食堂店員A子(当時一八才)およびB子(当時一七才)の両名を、食事をしようといつて誘い出し、明石市大蔵八幡町所在の新生モーテルにおいて飲食中、たまたま同モーテルに自家用乗用自動車で友人らと来合せた知り合いの辻本三郎を見かけるや、同人および堂本、田野の三名と同女らを強姦することを共謀のうえ、ドライブをしようといつて右被告人ら四名で辻本運転の普通乗用自動車に同女らを乗せて神戸市垂水区玉津町水谷四〇〇番地明石逓信療養所付近路上に連れ込んだところ、辻本が、同女らおよび被告人、堂本、田野を自動車から降ろすと直ちに新生モーテルに引き返して同モーテルに来合わせていた川崎三男、吉田明次、川崎剛、大川洋、前住慶三、小林信春に右の企てを打ち明けたので、右川崎三男ほか五名は被告人、堂本、田野、辻本とともに同女らを強姦することを諒承し、ここに被告人、堂本、田野、辻本、川崎三男、吉田、川崎剛、大川、前住、小林との間に順次同女らを強姦することの共謀を遂げたりえ、辻本がその運転する自動車に川崎三男、吉田、川崎剛、大川、前住、小林を乗せて再び明石逓信療養所付近路上までとつて返し、翌一月三日午前一時ごろ、同所に停車中の右自動車後部座席に先ず辻本において前記A子を押し倒したうえ、むりやりにズボン、下着を脱がせる等の暴行を加え、その反抗を抑圧して、順次辻本、川崎三男両名が強いて同女を姦淫したものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

被告人の判示所為は刑法一七七条前段、六〇条に該当するが、情状により同法六六条、七一条、六八条三号を適用して酌量減軽し、その刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、同法二一条により未決勾留日数中一二〇日を右本刑に算入し、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項但書により被告人に負担させないこととする。

(強姦致傷罪の公訴事実について、強姦罪だけを認めるに止めた理由)

検察官は、被告人は辻本三郎、川崎三男ほか数名の者と共謀のうえ、判示認定の強姦の後、更に一月三日午前六時ごろまでの間、神戸市垂水区玉津町和気所在の神戸市営アパート二の九号長井美代治方において、辻本、川崎三男ほか数名が順次強いてA子を姦淫し、判示認定の姦淫及び長井美代治方における姦淫の際、同女に対し全治三日間を要する右小陰唇内側上部擦過創等の傷害を負わせたものであるから強姦致傷罪を構成すると主張するところ、医師橋本貞二作成の診断書によると、同女が検察官主張の傷害を負つたことが認められるが、他方前掲証拠によると、被告人及び堂本、田野は、自分達が先ずA子らを姦淫しようと明石逓信療養所付近まで連行して来たものの、判示認定のように辻本、川崎三男が被告人らに先だつて同女を姦淫し(B子はすでに現場から逃げ帰つていた)、被告人及び堂本、田野は、なおも同女を姦淫しようと機会を窺つていたが、更に他の連中に先をこされそうになつたので、もはやA子を姦淫することを諦め、辻本ほか数名の者にその旨表明し、辻本らもこれを了承し、その現場を引揚げ帰路についたこと、後に残つた辻本、川崎三男、吉田、大川、前住らは場所をかえて再び幸子を強姦することを企て、辻本の運転する自動車にA子と共に全員乗り、右自動車内で、右明石逓信療養所付近からかなり離れた街中の神戸市垂水区玉津町和気所在の神戸市営アパート二の九号長井美代治方において、同女を姦淫することを共謀し、同女を同所へ運行して、昭和四一年一月三日午前二時すぎごろから午前五時ごろまで、辻本、吉田、前住、大川ほか一名が順次同女を強いて姦淫していること、更に辻本は同日午前五時すぎ同女を長井方から明石市大蔵八幡の新生モーテルに連れ込んで、半ば強制的に同モーテルの風呂に入れ、同浴外で同女を二回或は三回(A子の供述によれば三回、辻本の供述によれば二回)姦淫したこと(これは公訴事実に掲示されていない)が認められる。

右のように被告人及び堂本、田野は、辻本ほか数名と共謀のうえA子を強いて姦淫しようと企て、明石逓信療養所付近へ同女を自動車で運行し、判示認定のように辻本、川崎三男が同女を姦淫したが、ここにおいて被告人及び堂本、田野は自から同女を姦淫する意思を放棄し、共謀の相手方である辻本らに対してその旨表明し、辻本らの了承を得て、現場を離れ帰途についているのであるから、その後においては被告人及び堂本、田野と辻本らとの間に生じたA子を強姦することに関する当初の共謀関係は崩れ去つてしまつたと解するのが相当であり、(もつとも、当初の強姦の共謀の範囲内と目される部分については共謀の責任は免れないが、)被告人及び堂本、田野を除いた辻本ほか数名の者が、その後なおも引続いて同女を強姦しようと企て、右明石逓信療養所付近から場所的にかなり離れ、しかも被告人が予想もしなかつた前記長井美代治方へ連行し、辻本らが同所で同女を強いて姦淫したとしても、その姦淫は法律的には判示認定の姦淫と包括一罪として評価し得るも、社会的事実としては別個の姦淫と見るのが相当であつて、右長井美代治方における姦淫の共謀について被告人は何ら関知していないのであるから、右長井方における強姦の罪責を被告人に負わせることはできない。更に、辻本は、A子を同日午前五時すぎごろ長井方から新生モーテルへ連れ来たつて、同モーテルの浴場において二回又は三回同女を姦淫しているのであるから、検察官の主張するA子の傷害は右の三つの機会におけるいずれかの姦淫の際に生じたことは認められるにしてもその傷害の程度が右のとおり軽微なことと相俟つて、そのうちのいずれの姦淫の際に生じたものであるか明確に認定しうる証拠がない。

従つて、長井美代治方における強姦の点は前記理由により、傷害の点は結局証明がないことに帰し、その責任までも被告人に負わせることはできないというべきであるが、本件は強姦致傷の一罪(強姦の点は包括して)として起訴されているものであり、右と一罪の関係にある判示認定の強姦罪について有罪の言渡をする場合であるから、他の点については特に主文で無罪の言渡をしない。

(裁判官 三木良雄 辻忠雄 榎本恭博)

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